<初音ミク ロジックペイント S> 発売日:2021年3月18日 ジャンル:パズル 価格:1500円 プレイ時間:25時間以上(いろいろ鑑賞しながら全問クリアする場合) 有料DLC:なし 本作は、世間で言うところの「イラスト(お絵かき)ロジック」とか「ピクロス(Picross)」とか言われるゲーム。 2020年3月に発売されたAndroid/iOS用ゲーム「初音ミク ロジックペイント -ミクロジ-」のSwitch版となっているが、 問題は一新されているので同コンセプトの続編的なポジションの作品。 「初音ミク」とタイトルに入っている上、リリース元がクリプトン・フューチャー・メディアであることからもうかがえるように、 VOCALOIDを全力でフィーチャーしたイラストロジックである。 本作に登場するVOCALOIDは、初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITOの6名。 収録問題数は、345+8×25問。詳細は後述。 ====== 基本システム ====== 基本システムは1色のイラストロジックと同一。 間違ったマスを塗ると「ミス」として即座に指摘される、ヒント機能はランダム1列開示(3回まで)となっており、 ご存知の方は「マリオのピクロス」をイメージしていただけるとそれに近いルールとなっている。 塗り終わったヒント数字は薄くなる。また、列が完成するとその列の空きマスには全て自動で「×」がつく。 イラストロジックの初心者を考慮し、全体的に非常に親切設計である。 問題自体は1色でカラー問題はないが、クリアするとカラーに塗り直されて答えが出ると同時に、 ギャラリーで「その問題の題材となったイラスト」を見ることができるようになる。 また、問題の成績に応じて「★」を獲得できる。 成績といっても解答時間は無関係で、「クリア」「ノーヒント」「ノーミス」でそれぞれ1つずつ獲得。 全ての問題をノーヒントかつノーミスでクリアすれば、★は1635個となりこれが最大となる。 ★は楽曲の解禁に使うが、全ての問題をただクリアするだけで全曲解禁に十分な★が集まるので、 基本的に★の獲得=ノーヒントやノーミスでのクリアはやり込みプレイヤー向けのものとなっている。 本作にはピアプロ公募で採用された楽曲が18曲(+インスト版)収録されている。 インスト版は最初から解禁されており、ボーカルあり版は前述のように★で解禁する。順番は自由。 解禁した曲は「ミュージック」モードで聴ける他、ホームメニュー、パズル中のBGMに設定できるようになる。 なおインスト版は単純なOff Vocalではなく、特別に調整されたループ仕様となっている。 インスト版というよりは「ゲーム版」と言った方がいいのかもしれない。 のちに、本当の意味でのオフボーカル版がアップデートで追加された。 ====== 問題構成 ====== 「ノーマルパズル」と「スペシャルパズル」に分かれて構成されている。 ノーマルパズルはいわゆる通常問題。5×5〜20×20のサイズの問題を解いていく。 問題は3レベルに分けられ、レベル1が5×5(5問)と10×10(40問)、 レベル2が15×15(150問)、レベル3が20×20(150問)の問題で構成されている。 スペシャルパズルは15×15の問題が25問集まって1つの問題を構成している巨大パズルで、 実質75×75サイズの問題が8問収録されている。 (スペシャルパズルでは、15×15の小問題ごとに記録がつけられ、★も小問題ごとに獲得できる) 問題の難易度は全体的に易〜標準程度。 同レベル内の問題は難易度順になっていないため、概ね易しいがたまに難しいのが混ざっている、という印象。 難しいといってもあくまで「このゲームの中では」難しいということであり、 ピクロスなどの本格イラストロジックゲームにはこの程度の難易度の問題はザラにある。 本作は「キャラゲー」「パズルゲー」という2つの側面を持っているので、 以下ではそれぞれの側面について言及していく。 ====== キャラゲーとして ====== さて、2つの側面を持つとはいったが、 個人的には本作は「キャラゲー」としての要素が非常に強いと思っている。 先述の通り、本作の345問+スペシャル8問は全てイラストと紐付いており、全ての問題に対になったイラストが存在する。 その結果、ギャラリーモードでは350枚以上のイラストを閲覧できるというすさまじいことになっている。 イラストを手がけているのは初音ミクなどの公式イラストを手がけたKEI氏をはじめとした、 各方面で活躍する錚々たるイラストレーターたちであり、もうこの時点で1500円以上の価値はあるのではないか。 イラストの内容も幅広い。鑑賞するだけでなく、問題のどの部分がイラストに対応するのかなどを見るのも面白い。 楽曲は全体的にかわいらしいゲームデザインを反映した明るくポップなものが多い。 こちらもパズルゲームとしてはびっくりの収録曲数で、これだけでCDが1枚できるレベルである。 2020年にVOCALOID曲を初めて投稿した、という方も何名かいるようで、 やや意外性を狙った選出になっているような印象を受けた。 また、それ以外のゲーム的な部分にも、各所にVOCALOID要素がある。 まず、設定でお気に入りキャラを選ぶことができ、選んだちびキャラがホーム画面や、パズル中に登場する。 パズル中はこちらの行動に応じていろいろアクションをとってくれる(たとえば、1列完成したときに喜んでくれる、など)。 全体的にとてもかわいく、癒される。これは新手の癒やし系パズルゲームですか? 個人的には、 ・「ノーマルパズル」を選んだとき、ちびキャラが鉛筆(色鉛筆?)を持っている ・「ミュージック」を選んだとき、ちびキャラが歌っている のが特に好きだった。後者は(聴いている、ではなく)「歌っている」というのがいかにもVOCALOIDという感じで、素晴らしい。 なお、それ以外にも、 ・選んだキャラによって部屋の内装(主にカラーリング)が変わる ・部屋右のボカロ時計の針は本体時刻とリンクしている ・窓の外の色が本体時計とリンクしている(夕方ならオレンジ色、夜なら暗い青など) といった細かい仕様がある。 問題を解くとイラストや楽曲を解禁できる仕様、システムも初心者を強く意識した親切設計になっているなど、 どちらかというと「各要素を解禁するためにパズルを解く」「解禁がパズルのモチベーションになる」という傾向があり、 この部分が僕が「キャラゲー要素が強い」と感じた理由である。 そして、本作をキャラゲーとして見た場合、それはもはや文句なしの特大ボリュームであり、 ここまで椀飯振舞で大丈夫なのかと感じるレベルであった。 ====== パズルゲーとして ====== と、ここまでキャラゲーとしてべた褒めしたきたのだが、 パズルゲーとして見ると頭ごなしに評価できない部分がいくつかある、と言わざるをえない。 本作をパズルゲーとして語ること自体が野暮であるという感もなくはないが、 ひとりのイラストロジックファンとして、ここはしっかり言及しておくことにする。 システムは先述の通り超がつくほどの親切設計。 「列が確定したらその列の空きマスすべてに自動で×がつく」という仕様は他のゲームでは見たことがなかったので、 それについては感動を覚えるほどであった。 また、仮置きも「仮置きモードに切り替える」などする必要は無く、ただXボタンで仮置き可能。 仕組み上は「さくさく問題を解いてくれ」と言わんばかりのフレンドリーさを誇る。 しかし、親切すぎて問題が発生している。 その1つが「数字が確定していないのにヒント数字が消えてしまう」というものだ。 たとえば「3 1 1」というヒント数字をもつ列があり、そのうち1マスを塗りつぶせたとしよう。 このとき、他の手がかりと組み合わせなければその1マスが「3の一部」なのか「1」なのか、 1ならば「どちらの1なのか」は不明のはずである。 しかし、本作ではこの状況でも対応するヒント数字が消えてしまう(消えないなら3の一部)。 正解の盤面から判定しているのだろうか。 (ピクロスSシリーズでも塗り終わったヒント数字は薄くなるが、完全に確定しない限り薄くならない) 見なければいいという話だし、実際僕は見なかったことにして問題を解いたが、 このようにシステム側から本来は存在しないヒントを与えられるのは興醒めである。 見つけた手がかりを元に頭をひねって新たな手がかりを探し、解答へ導く。その過程が楽しく、醍醐味であるのだから。 なお、アップデートにてこの機能をON、OFFすることができるようになった。 OFFにするとそもそもグレーアウト自体がされなくなってしまう。 上級者向けと謳われているが不便なだけである。 また、間違ったマスを塗ると即座に指摘されるという仕様。 これはマリオのピクロスでお馴染みであるが、ガチ勢には不評である(僕も好きではない)。 初心者としては「問題が詰むことがない」という安心感を得られるメリットがあるが、 誤ったマスを塗ることは何も間違ったときばかりではない。操作ミスも十分あり得るのである。 (Switchにはジョイコンドリフトという深刻な問題があるだけに尚更) また、間違って正しいマスを塗ったときも、「塗れてしまった以上正解で確定」ということであり、 これはこれでこれまでの理詰めが崩れてしまうので、本気で解いているときには水を差された気分になる。 ここまではまあいいのだが、本作には間違って塗った時のペナルティが実質なく、ゲームオーバーの概念もない。 ペナルティは無いわけではないが、★が1つ得られないだけで、気にしない人にとっては何の枷にもならない。 そして、何マス間違えてもゲームオーバーになることはないので、 極論左上から順番にマスを塗る操作をするだけで問題が解けてしまう。 各問題でベストタイムが記録されるが、これにもヒントの有無やミスの有無は一切考慮されず、 ただ早ければ更新されるという仕様になっているため、注意が必要である。 (ピクロスSシリーズでは、ノーアシストで解いた時の記録が優先される) 本作の問題は解答後にカラーになるが、モノクロの段階で「これだ」と分かる問題は非常に少ない。 ピクロスSシリーズでもモノクロの状態だと何なのか分からない問題が多いということが批判に挙げられるが、 本作はそれ以上にひどい。20×20の問題でも明瞭に分かる問題はほとんどない。 また、色の付き方もあまり統一感がない印象を受ける。 (要は、解答の盤面からどうしてこのような色がついたの? と思う問題が多い) 問題自体も、多くの場合端が埋まる問題は何の苦労もなく解け、そうでない問題は難しいというパターンが多い。 (この性質はイラストロジック全般に当てはまるが、本作はそれが顕著) 難易度バランスはあまりいいとは言えないと思われる。 総問題数545というのは確かに大ボリュームだが、特に20×20には似たような問題も多く、 解答時間が長くなりがちなのも相俟って飽きがきやすい。イラスト解禁によるモチベーション促進があるのが幸いであった。 個人的にもっとも難しい問題だと思ったのは、「ノーマルパズル」のLv3-139の問題である。次点はLv3-12。 ただし、たとえばピクロスDSにはこれ以上に鬼畜な20×20の問題が平然と収録されていることを付け加えておく。 あくまで「本作の中では」である。 ====== 問題Lv2-134について ====== この問題には多重解が存在した。 先述の「確定していない数字が消える仕様」を前提にすれば1通りに定まるが、 イラストロジックの問題としては当初は答えが2つあった。 他に、このような多重解の問題は(おそらく)存在しない。 Ver 1.1.0のアップデートにて、一部のヒントが変更され、多重解は解消された。 このようなロジックパズルにおいて、「解が一意に定まる」のは大前提である。 修正されたものの、このような問題が堂々と公開されていた時期があったことには言及しておくことにする。 ====== izkdicが設定していたBGM ====== ホームBGM:Memory piece_instrumental / 1013hPa デフォルトのまま。他の曲も試したが、この曲が一番ホームにぴったりだった。デフォルトは正義(違) ボーカル版を聴いて、インスト版で最初に流れるフレーズがサビのバックだと知ってびっくりした裏話。 導入部から違いすぎである。 パズルBGM:Colouring*_instrumental / 糯餅たまご ボーカル版はギャラリーモードで流れている。 パズル中はほどよく集中できるよう落ち着いたテンポ、雰囲気の曲がよかったので、 いろいろ模索した結果この曲に行き着いた。 ====== 総評 ====== 1. VOCALOIDのことはほとんど知らない、あるいは興味がない 2. イラストロジックが大好きで、骨のある問題を求めている この1と2の両方に当てはまる人以外には全力でオススメできるゲームである。 1500円という価格設定ながら、350枚以上のイラスト、18曲の楽曲という特大ボリュームでお出迎えしてくれる。 ところどころに出てくるちびキャラもかわいらしく、VOCALOID好きならその雰囲気を堪能できるだろう。 イラストロジックの問題も全体的に簡単で、仕様も徹底的に初心者に寄り添ったものであるため、 もしあなたがイラストロジックを遊んだことがなくても、全問クリアすることができるはずだ。 解き進めればイラストも楽曲もどんどん解禁されるので、VOCALOIDワールドにどっぷり浸かれること請け合いである。 スペシャルパズルもこの規模で8問も収録されていることが驚きで、 こちらはイラストを完成させていく楽しみを味わえることだろう。 一方、実質545問収録されている一方で問題の易しさとワンパターンさがネックとなり、 パズルゲームとして見たときのボリュームにはクエスチョンマークをつけざるをえないか。 初期版は多重解のある問題が収録されてしまっていたことも向かい風。 VOCALOID好きならほとんど気にならない範疇だと思われるが、 ストイックに歯ごたえのあるパズルを本作に求めると肩すかしを食らう可能性が高いので注意が必要である。 (そんな人が本作をわざわざ買うか? というのはさておき) なお、ここまで深く述べていなかったが、 本作には最初に挙げた6名のVOCALOID以外は「全く」出てこないので、そちらを求めないように。 <執筆:izkdic @ 2021.04.04>